大学職員として大学運営に携わる中で、「将来は大学学長(総長)を目指したい」と考える方もいるかもしれません。本記事では、大学職員から大学学長になることが実際に可能なのか、そのキャリアパスや必要なスキル、ステップについて解説します。
大学職員と大学学長の役割の違い
まず、大学職員と大学学長では、その役割が大きく異なります。
- 大学職員: 大学の運営を円滑に進めるために、事務、企画、人事、財務、学生支援など、多岐にわたる業務を担当します。大学の組織運営を支える専門家であり、マネジメント能力やコミュニケーション能力が求められます。
- 大学学長(総長): 大学の代表として、教育・研究活動の推進、大学運営の最高責任者としての役割を担います。大学のビジョンを策定し、内外の関係者との連携を図りながら、大学を発展させていくリーダーシップが求められます。
このように、職員と学長は、大学運営という共通の目標を持ちながらも、担う役割と責任の範囲が大きく異なります。
大学職員から学長へのキャリアパス
一般的に、大学学長は、教授などの教育・研究者としてのキャリアを経て就任するケースがほとんどです。卓越した研究業績、教育における実績、そして大学運営に関する知識や経験が評価されます。
一方で、大学職員から学長になることは、非常に稀なケースと言えます。なぜなら、大学職員は主に大学運営の実務を担い、教育・研究活動を直接的に行う立場ではないため、学長に求められる教育・研究者としての実績を積み重ねることが難しいからです。
しかし、可能性が全くないわけではありません。実際に、ごく少数ではありますが、大学職員から学長に就任した事例も存在します。
職員からの学長就任事例
職員から学長になった事例は少ないながらも、以下のようなケースが考えられます。
- 専門職職員としての卓越した実績: 医療系大学や芸術系大学など、特定の専門分野を持つ大学においては、医師免許や専門分野における実績を持つ職員が、その専門性を活かして学長に就任するケースがあります。例えば、附属病院を持つ大学で、病院運営に精通した医療職の職員が学長となる事例などが考えられます。
- 大学運営における顕著な貢献: 長年にわたり大学職員として大学運営に貢献し、卓越したマネジメント能力やリーダーシップを発揮してきた職員が、特例的に学長に選出されるケースも理論上はありえます。ただし、これは非常に稀なケースであり、多くの場合、学長選考においては教育・研究者としての実績が重視されます。
【海外の事例 – 翻訳・追記】
アメリカなどでは、”Professional, Administrative, and Support Staff (PASS)” と呼ばれる、日本の大学職員に相当する職種から学長(President)になるケースは、日本よりも 若干 多いものの、依然として一般的ではありません。 しかし、以下のような事例や傾向が見られます。
- ビジネススクールや専門職大学院の学長: MBAホルダーで、企業経営やコンサルティングの経験を持つ職員が、ビジネススクールや専門職大学院の学長(Dean, President)に就任するケース。
- 小規模な私立大学やコミュニティカレッジ: 財務、学生サービス、広報などの分野で長年経験を積んだ職員が、内部昇進で学長になるケース。
- 「非伝統的」な学長: 近年、アメリカの大学では、教育・研究以外の分野(企業、政府、NPOなど)から学長を招聘するケースが増えており、その流れの中で、大学職員の経験が評価される可能性も わずかに 高まっています。
- (例) Ainsley Carry: 南カリフォルニア大学(USC)の学生担当副学長(Vice President for Student Affairs)を長年務めた後、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)の副学長に就任。このような学生サービス部門のトップ経験者が、他大学の要職に就く例はあります。(学長への就任はさらに稀です。)
職員から学長になることの難しさ
職員から学長になることが難しい主な理由は、以下の点が挙げられます。
- 学長選考における評価基準: 多くの大学では、学長選考において、教育・研究業績、学術的リーダーシップ、大学運営能力などが評価されます。職員は、教育・研究業績の面で、教育・研究者を キャリアとする候補者と比較して、実績をアピールすることが難しいです。
- キャリアパスの構造: 大学職員のキャリアパスは、大学の専門性を深める方向に進むことが一般的です。一方、学長のキャリアパスは、教育・研究活動を糧として、そのリーダーシップを発揮する方向に進むことが一般的です。このキャリアパスの構造の違いが、職員から学長への道が険しい理由の一つです。
まずは大学職員に受かってからの話ですが。
大学職員から学長になるためのステップ(もし目指すならば)
非常に困難ではありますが、大学職員から学長を目指す場合に、考慮すべきステップを以下に示します。
- 博士号の取得: 学長選考においては、博士号はほぼ必須の資格とみなされます。職員として働きながら、 संबंधित分野で博士号を取得することは、学術的な専門性を示す上で重要です。
- 研究活動への参画: 大学の教育・研究活動に何らかの形で参画し、研究業績を積み重ねることが求められます。例えば、非常勤講師として教鞭を執ったり、研究プロジェクトに協力者として参加したりするなどが考えられます。
- 大学運営への積極的な貢献とリーダーシップの発揮: 職員としての職務において、大学運営に積極的に貢献し、リーダーシップを発揮することが重要です。単に職務をこなすだけでなく、大学全体の vision を理解し、改革や改善提案を行うなど、大学運営に主体的に関わることが求められます。
- 学内ネットワークの構築: 学内外の教職員、関係者とのネットワークを構築し、自身の能力や vision をアピールすることも重要です。学長選考は、多くの場合、学内関係者の意向が大きく影響するため、 широкийなネットワークと支持を得ることが有利に働きます。
- (追加 – 海外の視点): 上級管理職への昇進: アメリカなどでは、まずは大学職員として、部長(Director)、副学長補佐(Assistant Vice President)、副学長(Vice President)といった上級管理職を目指し、大学全体の運営に関わる経験を積むことが、学長への道につながる 可能性 があります。
まとめ
大学職員から大学学長になることは、理論上は不可能ではありませんが、極めて困難であるというのが現実です。
大学学長の основнойキャリアパスは、教育・研究者としての実績を積み重ねることです。職員が学長を目指す場合、この основнойキャリアパスとは異なる道から、学長に求められる資質を示す必要があり、非常に高いハードルとなります。
しかし、大学職員としての経験は、大学運営を支える上で不可欠であり、学長とは異なる形で大学に貢献できる、非常に価値のあるキャリアです。もし学長を目指す道が険しいと感じたとしても、大学職員としてのキャリアに誇りを持ち、大学運営のプロフェッショナルとして活躍していく道も、十分に魅力的であることを忘れないでください。
キャリアの多様性
大学には、学長、教員、職員、学生など、様々な立場の人が集まり、それぞれの役割を担っています。どの役割も大学運営に不可欠であり、それぞれの専門性と貢献が尊重されるべきです。